この記事は2026年10月17日に、店の公式サイト・福岡市や福岡県観光連盟・農林水産省のページ・テレビ局の記事を一つずつ開いて確認した内容です。個人ブログやまとめ記事は根拠にしていません。
「博多の水炊きの元祖は水月」「いや、新三浦も古い」「白いスープが元祖」。福岡で水炊きの話になると、いろいろな説が出てきます。老舗3軒の公式サイトと公的な資料が、実際に何と書いているのかを確かめました。
調べてはっきりしたこと
- 公式サイトで自分から「発祥」「元祖」と名乗っているのは、確かめた中では水月だけでした。ページの題名に「水たき発祥の店」、社名が「有限会社 水たき元祖 水月」です
- 新三浦と水たき長野の公式サイトには、確かめたページの範囲で「元祖」「発祥」という言葉がありません。新三浦が前に出しているのは「明治43年」と「白濁スープ」です
- 福岡市・福岡県観光連盟・農林水産省は、水月の初代・林田平三郎の考案を始まりとして紹介しています。福岡市と観光連盟は「といわれます」「といわれています」と伝聞の形、農林水産省の福岡県のページは「考案者は林田平三郎」と言い切りで、書き方がそろっていません
- 元祖とされる水月は、公式で自分のスープを「澄んだコンソメ風」と書いています。新三浦と長野の公式は白濁スープです。「博多の水炊き=白いスープ」とは限りません
- 農林水産省には、林田平三郎の名前を出すページと、長崎で盛んになった鶏の料理が西洋のスープと合わさって福岡の料理になった、と人名も店名も出さずに説明するページの2つがあり、同じ省の中でも由来の書き方が違います

1. 水月の公式サイトに書いてあること
水月の公式サイトは、トップページの題名が「水たき発祥の店|水たき元祖水月」です。運営しているのは「有限会社 水たき元祖 水月」で、店の名前・会社の名前・ページの題名のすべてに「元祖」や「発祥」が入っています。今回確かめた店の中で、ここまではっきり名乗っているのは水月だけでした。
「歴史」のページには、「『博多水たき』の発祥と軌跡」という見出しで創業の話が載っています。要点を並べると次のとおりです。
| 公式サイトの記述 | 内容 |
|---|---|
| 初代 | 林田平三郎。明治13年12月22日生まれ、長崎県南高来郡北串山の出身 |
| 香港へ | 明治30年、15歳で一人で香港へ渡り、英国人の家庭に住み込む |
| 考えたこと | 西洋料理の「コンソメ」と、中華料理の「鶏を炊き込む」料理を、日本風にアレンジしようとした |
| 完成 | 明治38(1905)年、「博多水たき」の味を編み出した |
| 開業の場所 | 博多の土手町(須崎)。本店紹介のページでは「旧須崎町」 |
歴代の大将も載っていて、二代目が林田冨夫さん(大正5年生まれ)、三代目が林田三郎さん(昭和30年生まれ、ホテルオークラの洋食調理部の出身)です。本店のページには「一子相伝」「発祥の店として暖簾と味を守り」という言葉があり、支店を出さない理由として、水たきは「繊細な味の伝承がないと」本物をお出しできない、という初代の言葉を載せています。
もう一つ目を引くのが、メニューのページの「スープは澄んだコンソメ風」という一文です。さらに、橙(だいだい)のぽん酢、キャベツ、スープに塩と小ネギを入れて飲む食べ方は「全て水月のオリジナル」だと書いています。これも店の主張で、ほかの資料で裏づけたものではありません。
今の店は福岡市中央区平尾3丁目16-14です(公式サイト、2026年10月17日確認)。須崎から平尾へいつ移ったのかは、公式サイトには書かれていませんでした。
2. 新三浦は「元祖」と名乗っていない
新三浦(料亭新三浦 博多本店)の公式サイトの「こだわり」のページには、「明治43年この石城町(旧柳町)で新三浦は誕生」とあり、初代の青柳秀三郎さんが博多のおもてなし料理として「水だき」を始めた、と書かれています。同じ段落では、このころ鉄道が南九州までつながり、新鮮な鶏が届くようになったことにも触れています。

スープについては「創業時から変わらず365日火を入れ、継ぎ足し守ってきた自慢の白濁スープ」と説明しています。鶏と水で10時間以上炊いた濃いスープに、透明なスープを合わせる、という作り方も書かれています。
ところが、トップページ・「こだわり」・お取り寄せのページを見ても、「元祖」「発祥」という言葉は出てきません。あるのは「明治四十三年」「創業百年」「白濁スープ」です。新三浦が古い店であることは公式から確かめられますが、新三浦自身は元祖を名乗っていない、というのが今回の結果です。
では「新三浦は白濁スープの元祖」という話はどこから来たのか。確かめた中では、RKB毎日放送の記事(2022年9月14日)の見出しが「白濁スープの元祖」でした。ただし本文は、水炊きには透明と白濁の「2つの流派」があり、その白濁スープの元祖が新三浦「といわれ」ている、という書き方です。テレビ局も言い切ってはいません。
英語版のページには「澄んだスープと白いスープの2種類の水炊きを出している」とあります。日本語のページでも、濃いスープに透明なスープをブレンドすると書いているので、この2種類が何を指すのかは英語版だけでは決められません。また英語版には、創業を「1912年」とする文と、水炊きの歴史が「1909年」に始まったとする文があり、日本語版の「明治43年(1910年)」と年がそろっていません。
店は福岡市博多区石城町21-12。公式サイトの交通案内は、西鉄バス「築港口」下車徒歩約1分、地下鉄箱崎線「呉服町駅」から徒歩約20分です(2026年10月17日確認)。
3. 水たき長野の公式サイト
水たき長野の公式サイトは、トップページに「創業から100年」とあり、沿革を次のように載せています。
| 年 | 公式サイトの沿革 |
|---|---|
| 1930年ごろ | 上川端町で鶏肉店として創業 |
| 1950年ごろ | 天神へ移り、水たきを出し始める |
| 1957年 | 対馬小路へ移り、水たき専門店に |
| 1986年 | 今のビルに建て替え |
公式の沿革は1930年ごろの鶏肉店から始まっていて、水たきを出し始めたのは1950年ごろです。トップページの「創業から100年」と、沿革の「1930年ごろ」の関係は、公式サイトからは読み取れませんでした。
長野の公式サイトにも「元祖」「発祥」の言葉はなく、スープは白濁です。店は博多区対馬小路1-5、地下鉄中洲川端駅7番出口から徒歩10分と案内されています(2026年10月17日確認)。
4. 公的な資料はどう書いているか
福岡市、福岡県観光連盟、農林水産省、福岡県のページを並べると、書き方にかなり差があります。
| 資料 | 始まりの書き方 | 店名 |
|---|---|---|
| 福岡市「まるごと福岡・博多」のコラム | 林田平三郎が1905(明治38)年に「水月」の看板を上げたのが始まり「だといわれます」 | 水月 |
| クロスロードふくおか(福岡県観光連盟)の特集 | 林田平三郎が考案し、1905年に完成して水月で出され始めた「といわれています」。同じページに「発祥の店『水月』」とも | 水月 |
| クロスロードふくおか の観光スポットページ | 明治30年代に福岡市で考案され、九州大学医学部の関係者が広めた「といわれています」。店によって白濁タイプと澄んだタイプがある、とも | なし |
| 農林水産省「うちの郷土料理」地域ストーリー(福岡県) | 考案者は長崎県出身の林田平三郎。1905年に市内で水炊き専門店を開業した(言い切り) | なし(人名のみ) |
| 農林水産省「うちの郷土料理」若鶏の水炊き | 外国船が長崎に寄港した際に広まり、後に福岡に波及した「とされている」。中国風の鶏肉の淡塩煮が長崎で盛んになり、コンソメなどの西洋のスープと合わさった、という説明 | なし |
| よかなび(福岡市の観光公式) | 100年以上の歴史を持つ福岡の代表的な郷土料理、とだけ | なし |
| 福岡県「グラフふくおか」2018冬号 | 白濁するまで長時間煮込んだスープの説明だけ | なし |
公的な資料で始まりの人物を書いているところは、どこも林田平三郎を挙げています。新三浦や長野を「元祖」とした公的な資料は、今回は見つかりませんでした。福岡市とクロスロードふくおかの特集は「といわれます」「といわれています」の形で、農林水産省の地域ストーリーは言い切りです。市や県が「水月が発祥」と認定・認証したという資料は、今回は見つかりませんでした。なおクロスロードふくおかの特集は、同じページの後半では「発祥の店『水月』」と、伝聞を付けずに書いています。
注意したいのは、農林水産省に由来の書き方が違うページが2つあることです。地域ストーリーのページは林田平三郎の考案として言い切り、料理のページは長崎で盛んになった鶏の料理が西洋のスープと合わさった、という流れで説明していて、人名も店名も出していません。どちらも同じ「うちの郷土料理」の中のページです。
5. 「元祖のスープは透明」をややこしくしている書き方
今回いちばん引っかかったのは、スープの色です。水月の公式は自分のスープを「澄んだコンソメ風」と書いています。ところが、林田平三郎の考案を紹介している農林水産省の地域ストーリーは、同じ段落で水炊きのスープを「目を引く真っ白いスープ」と書いています。クロスロードふくおかの特集も、水月の話に続けて「白濁したスープ」と書いています。
これらのページは「水月のスープが白い」とまでは書いていません。ただ、つなげて読むと、元祖とされる店のスープも白いように読めてしまいます。水月の公式自身は「澄んだコンソメ風」と書いています(この記事では水月のスープの写真は用意できませんでした)。
RKBの記事は、水炊きにはコンソメのように透明に仕上げたスープと白濁スープの「2つの流派」がある、と書いています。クロスロードふくおかの観光スポットページも、店によって白濁タイプと澄んだタイプがある、としています。今回確かめた中では、「澄んだコンソメ風」と書いているのが水月、白濁が新三浦と長野でした。

6. ほかの店はどう言っているか
水炊きの店はたくさんありますが、ほかの大きな会社が自分を元祖と名乗っているかも確かめました。華味鳥を運営するトリゼンフーズは、自社の水炊きの解説ページで「水炊き発祥の店として知られる『水月』」と、よその店を発祥として紹介しています。博多華味鳥ととり田のトップページにも「元祖」「発祥」の言葉はありませんでした(確かめたのはトップページだけです)。
報道では、RKB毎日放送の別の記事(2023年3月13日)が、「最初に水炊きのお店として、明治38年に誕生した」のが水月だと書き、三代目の林田三郎さんの話として初代の香港での経験を紹介しています。
7. 表記は「水たき」「水だき」「水炊き」
同じ料理でも、店によって書き方が違います。水月と長野は店名で「水たき」、新三浦は日本語の本文で主に「水だき」(ページの題名やお取り寄せのページでは「水炊き」)、公的な資料はどれも「水炊き」でした。新三浦が「だ」と濁らせる理由として「スープが白く濁っているから」という話がありますが、新三浦の公式サイトにはその説明は見当たらず、グルメサイトの紹介でしか確かめられませんでした。表記の違いを説明した公式・公的な文章は、今回は見つかりませんでした。
資料によって食い違っていること
- 新三浦の年:日本語の公式は「明治43年」(1910年)、英語の公式は創業を「1912年」とし、同じ英語ページに水炊きの歴史は「1909年」に始まったという文もあります。公式の中で3つの年が出てきます
- 林田平三郎が香港へ渡った年齢:水月の公式は「明治30年、15歳」。ところが同じページの生年(明治13年12月22日)から数えると、明治30年には満16〜17歳です。数え年なら18歳になり、どちらにしても年と年齢が合いません。福岡市のコラムとトリゼンフーズのページも「15歳」と書いていて、同じ数字が引き継がれているように見えます
- 水月の開業地:歴史のページは「土手町(須崎)」、本店のページは「旧須崎町」。大きな食い違いではありませんが、言い方が違います
- 中華料理側の技法:水月の公式は「鶏を炊き込む」、福岡市のコラムは「鶏の水煮」、クロスロードふくおかの特集は「白湯(ぱいたん)」、農林水産省は「中国の鶏がらスープ」「中国風の鶏肉の淡塩煮」と、資料ごとに違う言葉で書いています
- 由来の筋書き:一人の考案者から始まる話(水月・福岡市・農林水産省の地域ストーリー・クロスロードの特集が林田平三郎の名前を挙げる)と、長崎の鶏の料理が西洋のスープと合わさって福岡の料理になったという話(農林水産省の料理ページ、人名なし)があります。クロスロードの観光スポットページは「明治30年代に福岡市で考案」とし、人名を出さずに九大医学部の関係者が広めたと書いています(明治38年は明治30年代なので、林田説と矛盾するわけではありません)
- 水たき長野の創業:公式トップは「創業から100年」、沿革は「1930年ごろ」の鶏肉店から。数え方は公式サイトからは読み取れませんでした
この記事で確認できなかったこと
- 「水たき元祖」などの言葉が商標として登録されているか(特許庁の検索サイトで調べていません)
- 水月と新三浦の創業者どうしに、師弟や親族などの関係があったか(どちらの公式にも書かれていません)
- 水月が須崎から今の平尾へ移った年
- 新聞が「元祖論争」として扱った記事
- 江戸時代の料理書に長崎の「鶏の水たき」が載っている、という話の原典(Wikipediaに書かれていますが、原典を確かめていません)
- 福岡市博物館や福岡市総合図書館が水炊きの起源について書いた資料(見つかったPDFは開けませんでした)
出典
- 水たき元祖 水月 公式サイト
- 水月 公式サイト「歴史」
- 水月 公式サイト「本店」
- 水月 公式サイト「メニュー」
- 料亭新三浦 博多本店 公式サイト
- 料亭新三浦 博多本店「お取り寄せ」
- 料亭新三浦 博多本店「こだわり」
- 料亭新三浦 博多本店「アクセス」
- 料亭新三浦 博多本店(英語ページ)
- 博多名代 水たき長野 公式サイト
- 福岡市「まるごと福岡・博多」コラム
- クロスロードふくおか(福岡県観光連盟)特集
- クロスロードふくおか 観光スポット「水炊き」
- 農林水産省「うちの郷土料理」地域ストーリー(福岡県)
- 農林水産省「うちの郷土料理」若鶏の水炊き
- よかなび(福岡市の観光公式)グルメ
- 福岡県「グラフふくおか」2018冬号
- トリゼンフーズ「水炊きの起源」
- 博多華味鳥 公式サイト
- とり田 公式サイト
- RKB毎日放送(2022年9月14日)
- RKB毎日放送(2023年3月13日)
営業時間や休み、予約の方法は変わることがあります。行く前に各店の公式サイトでご確認ください。
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